【現代SFドラマ 〜はたらかない人消滅〜】
「じゃあ母さんいってくるよ」
「いってらっしゃい、気をつけてね」
ショウタはふり向きざまに階段を見つめる。
母、ショウタの視線をさえぎり、送り出す。
母 「ケイタのぶんのプリント、もってきてね」
ショウタ 「・・・」
ショウタ、無言で玄関から出ていく。
場面:学校。ショウタと二人の同級生が話している。
同級生1 「なぁショウタ、おまえの弟なにしてんの?」
同級生2 「いいよなー、ずっと家にいて」
ショウタ 「うるさい!」
同級生 「・・・」
ショウタ、廊下を駆け出す。
先生 「あ、ショウタ君まちなさい!」
場面;夕日が沈む堤防でショウタが一人でとぼとぼ歩いている。
夕日を見つめるショウタ。
橋の下にダンボールで作られた家がある。一人の男がボロボロの鍋で何かを煮込んでいる。
男の様子を細い目で見つめるショウタ。
ショウタ 「働いてないやつなんて・・・一人残らず消えちまえ!」
ショウタ、川に石を投げる。
場面;家。ショウタがとぼとぼと帰宅する。
母、ショウタにあわてて駆け寄る。
母 「ショウタ!ケイタみなかった?すれ違わなかった?」
ショウタ 「あいつが外なんて出るわけ無いだろ」
母 「そんな・・・」
母、慌てて外にかけだす。ケイタの名前を叫び続ける。
ショウタ、ケイタの部屋を見る。雑然とした部屋だけがある。
ショウタの心の声 (あいつ・・・どこいったんだ)
場面;家族で食事をしている。
母 「はい・・・はい・・・そうです。お願いします」
母、警察に連絡をとる。心配そうに父が見つめてかけより、母の肩を抱いて椅子に座らせる。
父 「きっと、警察が見つけてくれる。心配ないよ」
母 「そうだと良いんだけど」
ショウタ (あいつのせいで・・・お父さんもお母さんも可愛そうだ)
ショウタ、無言で自分の部屋に戻る。ケイタの部屋を少し見てドアを閉じる。
場面:学校の校門前
いつもと様子の違うクラスメイトたちにショウタは戸惑う。
クラスメイトたち 「ケイタくんいなくなったんだって」「どうしたのかな」「家族ってそういうの気づかないもんなのかな」
ヒソヒソと噂をする声がショウタの耳に入ってくる。
ショウタ、耳を押さえて学校の校門からはしりだす。その様子を見ていた先生が心配そうにショウタを見つめる。
場面:ショウタ、学校をサボりいつもの堤防を歩く。
つまらなそうに歩くショウタ、昨日のままになっている橋の下の男の家に気づく。
男が調理していた鍋がそのままになっている。
ショウタ (あれ・・・あの人どこいったんだろ)
場面:ショウタの父が職場で同僚たちと話している。
父 「今月も残業きついよな・・・」
同僚 「ほんと・・・俺なんかもう100時間は超えてるよ」
うんざりした様子で仕事をする人々。
父、上司に呼び出される。慌てて会議室に行くと、数人の上司が父を待ち構える。
上司 「今月の成績・・・どうなんってんだ!君のチームだろ!」
父 「すいません・・・でも、我々も限界なんです」
上司 「なんだと!忙しいのはみんな一緒だ!」
父 「しかし・・・休みが必要なんです!このままではみんな、体がもちません」
上司 「だめだ!なんとかしてノルマをこなすんだ!」
父、上司にすがるようにお願いをする。
必死になるあまり、上司の肩をつかんだ。その瞬間、父の体が消え、上司に父のスーツがおおいかぶさる。
上司 「うわああ!なんだ・・・あれ、●●君・・・どこへいったんだ」
上司、不思議そうにスーツを見つめる。
場面:テレビが映し出されている。慌ただしくニュースレポーターがスタッフから書類を受け取っている。
つばを飲み込むレポーター。
『ただいま入ったニュースです』
ニュース画面に街中で混乱する人々が映し出される。
『日本中で突然人が消える事件が次々と報告されています』
『なんの前触れもなく、無職の方や、ふだんあまり外出をされない方、えー・・・
こう言いますとなんですが・・・あまり働くことに積極的では無い方から・・・
どんどん消えています!』
『政府の公式の発表によると、状況はまだ判然とはしておりませんが、
働かないことに積極的な発言をとらないように勧告が出されております』
プツンー。テレビが切れる。
うなだれる母。心配そうに母に抱きつくショウタ。
あまりに遅い父の帰りに不安を隠せない二人。
働かない人・・・消滅ーーー。
場面:父の会社。重役たちが緊急事態の会議を開いている。
男 「どういうことだね、社員たちはどこへいった」
男 「それが・・・おそらく消滅したかと」
男 「ばかな!では今後事業をどう進めていったら良いんだ」
男 「このままでは・・・」
男 「まて・・・!」
(息をのむ男たち)
男 「は・・・働こう」
男 「そ・・・そうだな」
男 「はたらき・・・たいよな」
(うなづきあう男たち)
場面:国会議事堂。ガラガラの議員席を首相が見つめる。
首相 「諸君・・・日本はいま、大変な危機にあります」
首相 「よって・・・休日廃止法案の決議をとりたいとおもいます」
立ち上がる議員たち。
首相 「休日も!休ます働きたいですか!」
うなづき、拍手をしながら全議員が立ち上がる。
場面;街を歩く人々。
ばたり、ばたり・・・と人が倒れている。誰も手を差し伸べず、駆け足で働いている。
街の巨大な電光掲示板にニュースが流れている。
『働かない人消滅から3年が立ちました
わが国の財政赤字が解消され、株価は2倍に成長しています!』
『しかし全人口は3千万人をきりました。減少にはどめがききません
このままでは・・・わが国は・・・滅亡します!』
ばたり・・・ばたり・・・・
通りをゆく人は、手も差し伸べずに駆け足で過ぎ去っていくーーー。
【現代SFドラマ 〜はたらかない人消滅〜】 完