ちょうど5ヶ月前に「経済学者 日本の最貧困地域に挑む」を読み終わったら、感想を書くということを言っていますね。とっくの昔(3ヶ月くらい前)に読み終わってはいるのですが、なんとなくものぐさで、今日まで感想を書きませんでした。しかし、今年もそろそろ終わりそうなので、重い腰を上げて、ちょっくら感想文を書いてみようかと思います。
とはいっても、あんまり長くは書けません。長く書きたい気持ちはあるのですが、人間の寿命には限りがありますし、腰も痛くなってくるので、短く終わらせたいと思います。読者のみなさまもあんまり長いとおそらく読む気がしないでしょうから、お互いwinwinではなかろうかと考える次第です。
ではようやく本題に入りたいと思います。とは言え、読み終わってから3ヶ月が経過していますし、本自体も図書館に返却してしまったので、すっかりとは言いませんが、かなり内容を忘却しております。しかし、なんとか、記憶の範囲で感想文を書きたいと思います。
まず、著者の鈴木亘さんなんですけど、僕が昔読んだ別の本で、生活保護や社会保障制度に対して、かなり厳しいご発言があったと記憶していて、最初の印象はあんまり良くなかったんですよね。橋下市長に取り入って、生活保護をビシバシ削減する悪いヤツというのが、本を読む前のアテクシの鈴木亘像でした。
ですが、結論から言うと、まったくそういうわけではなく、むしろ生活保護制度をどうやったら持続可能なものにしていけるのか?ということを真剣に考えている人だったのです。(とは言え、現行の生活保護制度を拡充する方向性の人にとっては、天敵となりうる人でしょう。)
本の内容は、日本のスラム街と思われているあいりん地区を鈴木亘先生が橋下市長からなんとかしてくれと頼まれて、なりゆきでなんとかするハメになったという、壮大な物語です。ガリア戦記とかありますよね。言うなれば、そういった戦記物に近い感じで物語は進んで行きます。
橋下市長という後ろ盾がいるにはいるのですが、実は鈴木先生にはなんの権限もありません。これが少年漫画とかだと、謎の超能力とか、主人公のカリスマとか、そういった必殺技を駆使して、難問を解決するのでしょうが、鈴木先生にあるのは、「経済学」の知識だけです。(あとで説明しますが、橋下市長の権力はあんまり使えません。)ほかには、あいりん地区で昔、活動していたころに培った人脈が多少あるだけです。
そんなこんなで、徒手空拳で魑魅魍魎の巣食う大阪市役所で孤軍奮闘していくわけですが、最終的にはなんとかうまくいきます。
ではどうやって鈴木先生が3年8ヶ月という長い期間を生き延びて来たのか?という核心をさくっと説明していきたいと思います。
上で軽く説明したとおり、鈴木先生に強力な権力はありません。しかし、ある程度のコネはあります。コネと言うのは、地元のNPOや、市民団体の偉いひとたちと知り合いであるということです。その人達から地元の情報を仕入れます。そうすれば、何が問題かがだんだんと分かってきます。そうした情報を分析して、問題解決の処方箋を役所の中のひとにレクチャーしていくのです。
普通に役所の中の人がそういうことをやれば、鈴木先生の出る幕はないのですが、地元の人たちは役所をあまり信頼していません。なぜなら、いままでなにか事業を行うといった場合に、役所は地元に相談もなく勝手に決めて、勝手にやってきた経緯があり、地元の人は役所に対して大きな不信感を抱いているからです。
つまり、役所と地元の間には深くて長い溝が横たわっており、その橋渡しをする人間が必要だったわけです。そうした人間に鈴木先生がたまたま当てはまったわけです。
そんなわけで、鈴木先生が地元の情報をうまく役所に伝えることで、役所は地元のニーズを把握できますし、地元は役所に要望を間接的に伝える事ができます。そうすると、地元と役所の両方に鈴木先生は「貸し」を作れるわけです。
この「貸し借り」というのが、ポイントになります。小さい貸しをたくさん作ることで、問題が起こったときに、お願いを聞いてもらいやすくなるわけです。
そういった、「貸し借り」関係をたくさん作っていくことで、鈴木先生のもとにさまざまな情報が集まるネットワークができました。あの問題は鈴木先生に相談しよう。この問題も・・・といったふうになにかにつけてたよられる老賢者みたいなポジションに収まって行くわけです。こうなると経済学用語でいう「ネットワーク効果」が働き、(pcでいうところのウィンドウズやスマホでいうところのiosみたいな感じです。)主導権を握ることができるわけです。
つまり、公式な権力はなくても、(いちおう特別顧問という肩書はありますが、なんの権限もありません。)主導権を握ることで、実質的に強力な権力を手に入れたわけです。(とは言え、これは万人に通用するわけではなく、そもそも貸し借り関係を築けない相手にはなんの影響力も持つことができず、そういう相手と対峙する場合、かなりの苦労をしています。)
そういうわけで、基本的には地元の要望を役所に伝えるボトムアップ型の行政改革をしていくわけですが、予算など、お金が絡む場合、役所のほうもなかなか首を縦に振りません。そういう場合に、伝家の宝刀である、「橋下市長」の鶴の一声を使用するわけです。しかし、伝家の宝刀をいつも抜いてばかりいると、反感を買いますし、抜け道をつくられる恐れもあります。そして何よりも、橋下市長に能力のなさを見限られ、解任されてしまうのです。
そういうわけで、「橋下市長」という伝家の宝刀はめったに抜けません。つまり、このような権力はにっちもさっちもいかなくなった場合の非常手段と言えるでしょう。
長く書くつもりは全く無かったのですが、結果的に長くなってしまいました。もうちょっと要点をまとめて、書くような癖をつけたいのですが、徒然なるままに書いていると、余分な文章が湧き出てきますね。
結果的にあいりん地区はいい感じに改革され、すべてのステークホルダーがまぁ、納得いく形に収まったように思われます。(過激派みたいな人たちが最後まで全体会議のときにヤジを飛ばしたりして妨害しようとするのですが、経済学を応用することでなんとか対応してしまう鈴木先生の大活躍も見どころです。)
なんとなくお硬いイメージがするかと思われますし、たしかに分厚いので一瞬読むことをためらうかもしれませんが、読んでいるうちにだんだん主人公である鈴木先生と一体化していくので、読書中級者あたりなら苦もなく読めるかと思います。途中の経済学コラムも面白いので、全部読むのが面倒な人は、ぜひコラムだけでも読んでみてください。